寝室のドアを、そっと開けた。
部屋の中は、思っていたより涼しかった。
エアコンの小さな運転ランプが、暗い部屋の端で光っていた。
子どもは布団の中で眠っていた。
片方の足だけ、タオルケットから少し出ていた。
枕元には、読みかけの本と、小さなぬいぐるみが置かれていた。
わたしはリモコンを手に取った。
冷房の表示を見た。
設定温度は、いつもと同じだった。
それなのに、数字が少しだけ重く見えた。
昼間、スマホに電気代のお知らせが届いていた。
通知を開いた瞬間、思わず画面を閉じた。
先月より高かった。
暑かったから仕方ない。
家にいる時間が長かったから仕方ない。
子どもが寝苦しそうだったから仕方ない。
そう思おうとした。
でも、夜になるとまた気になった。
このまま朝までつけていたら、いくらになるんだろう。
そんなことを考えてしまった。
リモコンの停止ボタンに、親指を乗せた。
ピッ、と押せば終わる。
今夜の電気代が、ほんの少しだけ軽くなる。
そう思った。
でも、布団の中の子どもが小さく寝返りを打った。
髪が額にはりついていた。
寝息が、少しだけ浅く聞こえた。
わたしの親指は、そこで止まった。
消したら暑いかな。
でも、つけっぱなしも怖い。
窓を開ければいいのかもしれない。
けれど、外の空気はまだむっとしている。
節約したいだけなのに。
家族のためにやっているはずなのに。
気づいたら、子どもの眠りまで削ろうとしている気がした。
そんなつもりじゃない。
そう思ったのに、胸の奥が少しざわついた。
リモコンを持ったまま、わたしはしばらく立っていた。
エアコンの風が、カーテンの端をほんの少し揺らしていた。
子どもの寝息が、その音に混じって聞こえた。
わたしは停止ボタンを見た。
次に、子どもの顔を見た。
どちらを見ても、すぐに決められなかった。
廊下の向こうで、冷蔵庫の音が小さく鳴っていた。
リビングには、昼間に閉じたままの電気代のお知らせが、まだスマホの中に残っていた。
リモコンの画面だけが、手の中で白く光っていた。
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
電気代が気になると、ついエアコンや照明を我慢する方向に考えてしまうことがあります。
ぼくも、まず「使わないようにする」ことばかり考えていた時期がありました。
でも、家族の快適さまで削ってしまうと、節約なのに少し苦しくなります。
我慢だけで乗り切る前に、契約内容や料金プラン、使い方の仕組みを一度見てみる。
それだけでも、暮らしの負担が少し変わるかもしれません。
同じように、光熱費が気になっている方はこちらの扉からどうぞ。
