夜、リビングの電気だけがついていた。
テーブルの上には、飲みかけのお茶と、学校から持ち帰ったプリントが置かれていた。
子どものスマホは、コンセントの近くで静かに充電されていた。
ぼくはスマホを手に取って、料金明細の画面を開いた。
見るつもりはあった。
でも、ちゃんと見る覚悟まではできていなかった。
画面には、家族分の名前が並んでいた。
自分の名前。
妻の名前。
そして、子どもの名前。
その子どもの名前のところで、指が止まった。
月額料金。
通話料。
オプション。
端末代の残り。
一つひとつは、ものすごく大きな金額ではなかった。
けれど、家族分で並ぶと、急に重く見えた。
毎月、何も言わなくても出ていくお金だった。
子どものスマホが必要なのは分かっている。
友だちとの連絡。
学校のこと。
調べもの。
写真を撮ったり、家族にメッセージを送ったり。
もう、ぜいたく品ではないのだと思う。
分かっている。
だから、責めたいわけじゃない。
それなのに、明細を見ていると、胸の奥から小さなため息が出そうになった。
「スマホ、充電できてる?」
子どもが廊下から顔を出して聞いた。
パジャマの袖が少し伸びていた。
髪はお風呂上がりで、まだ少し濡れていた。
「できてるよ」
ぼくはスマホの画面を伏せるように、手のひらで少し隠した。
別に見られて困るものではなかった。
でも、見られたくなかった。
子どもは「よかった」と言って、充電器の方をちらっと見た。
それから、すぐに部屋へ戻っていった。
足音が廊下の奥に消えた。
ぼくはもう一度、明細を見た。
子どもの名前の横にある数字が、さっきより濃く見えた。
この子が悪いわけじゃない。
使いすぎていると決めつけたいわけでもない。
むしろ、必要だから持たせたのは、ぼくたち親だった。
それなのに、数字を見ると、心のどこかで言い訳を探してしまう。
もっと安くできたんじゃないか。
何年もそのままにしていたんじゃないか。
家族分だから仕方ないと、見ないふりをしてきたんじゃないか。
スマホは、テーブルの上で白く光っていた。
充電中の子どものスマホも、床の近くで小さく光っていた。
どちらの光も、なぜか少しまぶしかった。
ぼくは画面を閉じなかった。
でも、先へ進むこともできなかった。
子どもの名前のところに指を置いたまま、しばらく動けなかった。
リビングの時計だけが、いつもより大きく聞こえた。
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
子どものスマホ代って、責めたいわけじゃないんですよね。
必要なのも分かっているし、今の暮らしでは持たせない方が不安な場面もあります。
でも、家族分の明細を見ると、毎月の通信費の重さに気づいてしまうことがあります。
ぼくも、家族分だから仕方ないと思って、そのままにしていた時期がありました。
子どもを責めるのではなく、まずは契約やプランを見直す。
それだけでも、毎月の支払いが少し軽くなるかもしれません。
同じように、家族分のスマホ代が気になっている方はこちらの扉からどうぞ。
