夜のリビングは、いつもより少し静かだった。
子どもたちはもう寝ていて、廊下の奥から小さな寝息のような気配だけがした。
テーブルの上には、学校のプリントと、飲みかけのお茶が置かれていた。
ぼくはノートパソコンを開いた。
画面の明かりが、テーブルの木目を白く照らした。
検索窓には、さっき自分で打った言葉が残っていた。
副業。
在宅。
初心者。
その三つの言葉を見ただけで、少しだけ恥ずかしくなった。
別に、誰かに見られているわけじゃない。
家族は寝ている。
部屋には、ぼく一人しかいなかった。
それでも、なんとなく画面を小さくしたくなった。
案件一覧のようなページを開いた。
文章を書く仕事。
データを入力する仕事。
デザインの仕事。
動画を編集する仕事。
相談に乗る仕事。
いろいろ並んでいた。
思っていたより、たくさんあった。
でも、見れば見るほど、手が止まった。
できそうな仕事を探していたはずだった。
それなのに、探しているうちに、自分にできないことばかり見えてきた。
特別な資格はない。
人に見せられる実績もない。
パソコンが得意かと言われると、そこまででもない。
文章だって、うまいのか分からない。
会社では、毎日それなりに働いている。
家では、親としても何とかやっている。
でも、それを「仕事にできます」と言えるほどのものなのか、自分では分からなかった。
画面の端に、報酬の目安が表示されていた。
大きな金額ではなかった。
けれど、その小さな金額さえ、自分には遠く見えた。
ぼくはマウスに手を置いたまま、動かせなかった。
リビングの時計が、コチ、と鳴った。
冷蔵庫の音が、低く続いていた。
洗濯機の中には、まだ干していない洗濯物が残っていた。
やることは、ほかにもあった。
それでも、画面を閉じることもできなかった。
閉じたら、また何も変わらない気がした。
開いたままでも、何かが始まるわけではなかった。
「自分にできること」
メモ帳の一番上に、そう書いた。
書いたところで、ペンが止まった。
その下に、何を書けばいいのか分からなかった。
子どもの寝室の方で、布団が少し動く音がした。
ぼくは反射的にそちらを見た。
すぐに静かになった。
家族を守りたい。
収入を少しでも増やしたい。
そう思って開いた画面だった。
でも、画面の中に並んでいる仕事を見ているうちに、なぜか自分だけが空っぽになっていく気がした。
できそうなことを探していたはずなのに。
見れば見るほど、自分には何もない気がした。
パソコンの画面は、まだ明るかった。
メモ帳の白い余白も、まだ白いままだった。
ぼくはペンを持ったまま、最初の一行の下をずっと見ていた。
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
副業や在宅ワークの画面を開くと、最初にワクワクするというより、少し怖くなることがあります。
ぼくも、「自分にできることなんてあるのかな」と思って、画面の前で止まったことがあります。
でも、何もないと感じるのは、本当に何もないからとは限りません。
自分の経験や得意なことを、まだ仕事の形に置き換えられていないだけかもしれません。
いきなり応募しなくても大丈夫です。
まずは、どんな仕事があるのか眺める。
自分が少しでもできそうなことを、ひとつだけ書き出してみる。
それだけでも、閉じたままだった扉に少し手をかけることになります。
同じように、副業やスキルづくりが気になっている方はこちらの扉からどうぞ。
